2016年3月11日金曜日

「トイレのピエタ」 松永大司 2015 ★


松永大司

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スタッフ
監督 松永大司
脚本 松永大司
原作 松永大司『トイレのピエタ』
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キャスト
園田宏(余命宣告される元芸大生): 野田洋次郎
宮田真衣(高校生):杉咲花
横田亨(がん病院でのルームメイト):リリー・フランキー
尾崎さつき(宏の元彼女):市川紗椰
園田智恵(宏の母):大竹しのぶ
園田一男(宏の父):岩松了
橋本敬子(がんで入院する子供の母):宮沢りえ
橋本拓人(敬子の息子):澤田陸
武田晴子:MEGUMI
金沢:佐藤健
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建築という仕事柄、普段からアートに関する人々と接する機会をいただくことがある。美術館のキュレーターや、アートイベントのダイレクター、それにギャラリストやアーティスト。

改めて思うのが、普段日常で会っている「アートを生業としている人々」は、厳しい競争というフィルターをすでに潜り抜けてきている人であり、その作品やキュレーション能力において、世間からある一定の認知を受け、才能を認められ、絵を描いたり、作品を残すことに時間を割くことを可能とした人であるということ。

その中でもキャリアの段階において、それぞれにまた厳しい競争があり、その中で再度ふるいにかけられ、残った人がより上のステージにて、より大きな自由を得て信じる「アート」を世に送り出すことになる。

アーティストとして特別な才能と技術を身につけるため、芸術大学や独自に学ぶ。しかしその後どうにかして世に出るためには、誰かの目に留まり、評価してもらい、展覧会などの機会を得ていかなければいけない。その為に採用されているのが全国に散らばる様々な分野のアートを手がけるギャラリーシステム。才能があると目をつけたアーティストとギャラリーが何かしらの契約を結び、製作を援助し、方向性を語らいあい、そして展覧会を企画して世の目につくようにし、活躍の場を広げていくことで、アーティストの作品の価値を高めていく。

絵がうまかったり、独特の完成があり作品のクオリティを高めることができることと、それを誰かに知ってもらい、自らの活動を支える収入に変換すること。その二つはまったく異なる能力であり、小さなころからずっと絵を描いてきた人に、ある年齢からいきなり後者の仕事もしろと言っても、なかなかうまくできるものではない。営業や広報、そして人との付き合い。そんな対外的な才能とは違って、深く自らに向き合う能力があってこそできる作品もあるはずである。

しかし、現実は社交的で人付き合いがうまい、人脈が広い、可愛かったり、イケメンであったりと、絵の才能とは違う部分での要素を持っていることが、「誰かに自分の作品を知ってもらう」という点を突破するには大きな力を発揮する。

学生時代は同級生からも一目置かれ才能があるとされた芸大生。卒業後、定職に付くこともなく、アルバイトのビルの窓の清掃を行いながら、徐々に絵を描くことから遠ざかり、もやもやした気持ちを抱えながらも、クラブに通い刹那的に日々を過ごしていく主人公。

そんな主人公が突きつけられたのはいきなりの「がん」と「余命」宣告。そんな折にであった日常に苛立ちながらまっすぐに感情をむき出しにしてくる女子高生。徐々に弱る自らの身体と、「死」を受け入れながら生きていく周りの患者仲間の姿、そしてそんな自分の深刻さを物ともしない様に振舞う女子高生の真衣に振り回されながら、徐々に自分の人生を振り返り、自分の周りにいる人々と再度向き合うことになる宏。

この主人公を若者に人気だというロックバンド・RADWIMPSのボーカルの野田洋次郎が演じたことで、大きな話題を呼んで、かつ様々な映画賞にてもいろいろな賞を受賞しているようであるが、地方から絵を志して東京に出てきて、自ら求める「アート」と作品制作以外のことで評価されるアートの現状とうまく着地点を見つけられぬまま、漂うように今を生きる若者の演技はやはり真に迫ったものがある。

「余命」という自らの命の残り時間を直視したときに、人が何に時間を費やすのか。そこにその人が過ごしてきた一生の本質が見えてくる。そして主人公が選んだのは、出会った人々との記憶をとどめるように、アパートのトイレに「ピエタ」をモチーフとした女子高生の姿を描くこと。

学生のように若すぎず、社会人としての責任を持つほど老い過ぎず、モラトリアムの中で向き合う自らの残された時間。そこにはなかなか惹きつけられるものがあったが、今度アート関係の友達にぜひともどれくらいのリアリティがあるのかと感想を聞いてみたいものである。



2016年3月7日月曜日

「海街diary」 是枝裕和 2015 ★★★

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スタッフ
監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
原作 吉田秋生『海街diary』
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キャスト
香田幸(三姉妹の長女): 綾瀬はるか
香田佳乃(三姉妹の次女):長澤まさみ
香田千佳(三姉妹の三女):夏帆
浅野すず(三姉妹の異母妹):広瀬すず
佐々木都(三姉妹の母):大竹しのぶ
椎名和也(医師):堤真一
二ノ宮さち子(海猫食堂店主):風吹ジュン
福田仙一(山猫亭店主):リリー・フランキー
菊池史代(大船のおばちゃん):樹木希林
坂下美海(佳乃の上司):加瀬亮
井上泰之(湘南オクトパス監督):鈴木亮平
浜田三蔵(千佳の恋人):池田貴史
藤井朋章(店長、佳乃の恋人):坂口健太郎
尾崎風太(湘南オクトパス選手):前田旺志郎
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様々なところで映画賞を総なめしているらしいこの作品。大ヒットを記録しているということで、ヒットした漫画の実写化の流れも、これでより強固なものになるだろうと予想させる一作だろう。

舞台である「鎌倉」の落ち着いた街並みと豊かに残る自然の姿を前面にだし、全編を通して認識できる場所があちこちに登場するのも、映画を見えはロケ地を巡る観光客を期待する最近の邦画の流れであるのだろう。

主演の綾瀬はるかや、最近どの邦画を見ても出演しているように思われる、大竹しのぶ、リリー・フランキー、樹木希林や風吹ジュンなどの安定した脇役の演技もさることながら、自由奔放な次女の役を演じる長澤まさみの演技が非常に自然で好感が持てる。

海があって、里山があり、家族がともに住まう家があり、様々な舞台となる縁側がある。そんな日本の良き風景をふんだんに散りばめたこの映画と漫画が現代にヒットしているというのも、それが日本全国から失われつつある現代を投影しているからだろうかと想像を膨らませる。

今年も「住みたい街ランキング」の上位の常連としてランクインしたという鎌倉。古代の時代から人が集って住まったこの場所には、やはり生活の場として「心地よい」と感じる何かがあるのだろうと想像する。

この映画を見たことで、また紫陽花の咲く時期にこの街を訪れては、あちこちで「え、映画のシーンで使われていた場所だ」と発見するのもまた新たなこの街の楽しみとなっていくのだろう。















2016年3月6日日曜日

「0.5ミリ」 安藤桃子 2014 ★★★


安藤桃子
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スタッフ
監督 安藤桃子
脚本 安藤桃子
エグゼクティブプロデューサー 奥田瑛二
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キャスト
山岸サワ(介護士): 安藤サクラ
片岡昭三(寝たきりのおじいちゃん):織本順吉
片岡雪子(自殺する母):木内みどり
片岡マコト(引きこもりの息子):土屋希望
茂(自転車をパンクさせる):坂田利夫
ベンガル(茂の友人の詐欺師):斉藤末男 
康夫(カラオケ店に泊まろうとする老人):井上竜夫
カラオケ店員:東出昌大
真壁義男(元教師):津川雅彦
真壁静江(寝たきりの妻):草笛光子
浜田(真壁家のヘルパー):角替和枝
真壁久子(義男の姪):浅田美代子
佐々木健(マコト引き取り育てる父親):柄本明
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物語としては、安藤サクラ演じる介護士をしている主人公の山岸サワが、寝たきりのおじいちゃんを介護している派遣先で、その娘から、「冥土の土産におじいちゃんと一晩でいいから寝てくれないか?」と頼まれるところから始まる。

介護問題、漂流老人、老後の性欲、引きこもり、痴呆症などなど、様々な社会問題に対して、ネガティブな視線ではなく、明るくポジティブにかつ、等身大の視線で現代の日本の社会を描き出す意欲作。

サワが食事を取るシーンで「なんだか見たことある場所だな?」と調べてみると、やはり高知市のひらめ市場。全編に渡り高知に移住したと言われる監督である安藤桃子の高知愛がじっとり感じられる映画でもある。様々な地方に足を運び、こうして映画などでそのロケ地として選ばれるのもまた、あまたある様々な都市や風景から、魅力的だと誰かが選んだことによるものであるし、そういう風景を共有し、また認識できるようになって行くのは、旅を重ねる楽しみでもあると再認識する。

それと同時に安藤桃子が移住した理由も納得できるほど、高知、特に高知市は海があり、山があり、歴史的な街並みも残り、場所としての豊かさがにじみ出る、そんな場所である。「桐島、部活やめるってよ」でも同じように、この高知市の穏やかな時間の流れと空気感がとても清清しい画を作り出していたのを思い出す。

元々の派遣先の家で依頼された「おじいちゃんと寝てくれない?」という夜に、そのおじいちゃんが暴走することで発生した火災と、その娘が別れた夫との間の現在引きこもりで一言も言葉を発しない息子との生活に悲観しての自殺が重なったことで、主人公は勤め先を失い、家も仕事も金も無い状況で街を漂う。そんな日常から少し外れ、社会にとっての異端からの視線に入ってくるのは、周囲から見るとややおかしな行動をとっている高齢者の男性。

少々痴呆が始まり、糖尿病のインシュリンの投与をしながらカラオケ屋で宿泊できるものだと勘違いして店員の東出昌大ともめる老人。自転車置き場でタイヤをいたずらでパンクさせて、木々に話しかける老人。元教師でプライドは高いが、女子高生への隠しきれない性欲に駆られ万引きをしようとしてしまう老人。そんな老人の後ろめたい気持ちに付け込み、なんとか同居をさせてもらいながら生活をしていくうちに、どの老人とも心を通わせていきながと言われる監督である安藤桃子の高ら、どう人生の最後の時期を過ごすかという大きな社会問題を描いていく。

現代の日本が抱える高齢化社会と独居老人、老老介護の問題などを抱える高齢者たちの問題を解決する方法を描く訳ではないが、分かりやすい悲惨な状況にある人の物語を描くことで世間の注目を浴びようとする作品とは一線を画し、あくまでも明るく、そして親身に人として向き合う若い女性、プラスその女性が飛び切りの美人で世間も「ああ、なるほどね・・・」と別の意図を汲み取るようなキャスティングではなく、絶妙などこにでもいそうという容姿の女優を持ってくることで、あくまでも人間同士の係わり合いのドラマとしているのは、非常に好感が持てる。

なので、途中まで、「これは何か新しい社会のあり方を、路頭に迷う若者と、孤独に苦しむ高齢者とのあたらなるマッチングによって示そうとしているのかな?」と勘ぐってみてしまうが、3人目くらいなると、そのような重厚なメッセージは含まれておらず、ただただ淡々と老人や社会で自分の居場所探しに苦しむ若者の脇を漂いながら生きていく主人公の姿を描きながら、現代の日本を描いているのだと納得できる。

最後にカラオケ屋の店員としてチョイ役で登場する東出昌大は、「ひょっとして高知出身で地元愛で出演したのでは・・・」と思って調べるが、そんなことはなく埼玉出身のようである。

カラオケ店に泊まろうとする康夫


自転車をパンクさせる茂

元教師の真壁義男

真壁家のヘルパーの浜田

マコト引き取り育てる父親の佐々木健
引きこもりの息子の片岡マコト

2016年3月5日土曜日

「中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇」 中沢彰吾 2015 ★


電車の中、20代後半と思わしきスーツ姿の若い男女。上司の男性に部下の女性という感じ。身に着けているものは年齢に比べたら少し上等なモノのようだが、なんだか少しチャラチャラした感じ。一体どんな職業なのかと想像を広げていたら、男性がおもむろに電話を取り出し、「終了報告のメールさせとけよ」と指示の電話。そして読んだこの本。なるほど、ああいう彼らが派遣会社の若い社員で、中高年に高圧的に指示を与えては高収入を得ているのかとピンとくる。

つい先日のNHKの「クローズアップ現代|増える“正社員ゼロ職場”~公共サービスを担う現場で何が」でも、この数年で、今までは「公」の機関としてかなり好待遇で正社員として働いていた京都の保育士が、業務を外部の運営会社に委託するに伴い、その運営会社との再契約という契約の切り替えが行われ、今までの半分ほどの給与になったり雇い止めとなったりした話を報じていたばかり。

どこまでが過剰な好待遇で、競争に晒される市場原理から隔離された利権と呼ばれるようなものなのかは難しいところであるが、できるだけ組織をスリム化し、経費を削減して利益を上げていくことを迫られた企業にとっては、固定費として毎月のしかかる人件費は最も手をつけたいところである。だが、同時に従業員の生活と、会社のサービスに直結するところでもあるので、細心の注意を払って精査して「仕分け」していくこと、これはグローバル化し、どんどんと効率という波が押し寄せる現代においては、どうしても避けては通れないことも事実。

そんな中でこの10年近く、長きにわたって問題とされてきた格差問題と非正規労働者の問題。その問題の中にも既に10年以上の時間が流れたためにある種の歴史が生まれており、その概要を知ることと、この問題の現在の状況を把握するために手にした一冊。


第3章 人材派遣の危険な落とし穴―「もう来るなよ。てめえみてえなじじい、いらねえから」の「人材派遣が急拡大した本当のワケ」によれば、1995年に日経連が発表した「新時代の日本的経営」で、今後は働き手を、「長期蓄積能力活用型グループ(正社員の終身雇用)」、「高度専門能力活用型グループ(専門的な能力を要する働き手を期間だけ雇う)」、「雇用柔軟型グループ(パート、派遣労働者などの低賃金不安定労働者)」の三種に分けて、労働力を効率的に使い企業収益を高めようと宣言。つまり、今までの大量に従業員を抱え、組織内部で重い負担を抱えつつやりくりをするのではなく、より効率的に外部の人材も借りながらやりくりをしていきますということである。

しかしそれには「40代以上の社員の削減」という長年の慣行である終身雇用が壁になり困難であった。そこに登場したのが人材派遣業界で、企業が受けていた契約社員やパート労働者の賃金差別訴訟の頻発した状況を受け、労働者を本来の職場から切り離して人材派遣会社が雇用すると言う形にすれば、面倒な訴訟は回避でき、人事責任も負わないという新しい理論を提示する。企業としては「使えない社員」や「お荷物となった社員」に対し、自分たちで会社を辞めてもらう話し合いをすることなく、企業に人減らし合理化を提案するコンサルタントにアウトソーシングし、同時に足りなくなった労働力は派遣会社を通して補充することになる。

リーマンショックによる年越し派遣村など、社会がその問題を現実問題として受け止めるきっかけになったのは2008年。その当時を含め、「2010年頃までの第二時代の人材派遣会社に食い物にされた犠牲者は20代、30代の若年労働者が多かった」という。「だが、2015年の今は違う。2000万人を超えた非正規労働者のうち、6割以上が40代以上の中高年だ」と、5年を経た現在はその様相が変わり、30代だった派遣労働者が正社員になることなく、そのまま派遣労働者として40代に突入したのと、今までは正社員として働いていたがその身分を失って派遣として働かざるを得なくなった40代から50代、そして退職後の生活の為に収入を得るために仕事を求めるがやはり派遣の仕事しか得られない高齢者。これらの人がこの5年の間に数字を伸ばしたのだと想像できる。

「自己責任」だとか、「時代の流れだ」とか言ってしまうのは容易であるが、これが現在の日本の風景であり、多くの人が望んでその状況にいるのではなく、より安定し高収入な正社員として社会に関わりたいと望んでいるが、それがかなわない状況があること。それが「二極化」する世界の中で技能を持ってそれを正当に評価してもらえ、見合った報酬を払ってもらえる職場を見つけられる人はいいが、それ以外の人は生きていくためにこのような決して望ましいとは言えない労働状態に定常しなければいけない。これが今後も当たり前の風景として定着していくのが望ましいのか否か。それを考え、決めていかなければいけない時代に入ってきたのだと良く分かる一冊である。

以下本文より。

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―奴隷労働の現場
人材派遣は「使いたい人数を安価に、必要最低限の時間だけ単純労働に従事させ、人事責任を負わない」という派遣先企業にとって、すこぶる好都合な制度になっている

第1章 人材派遣という名の「人間キャッチボール」
特定労働者派遣と一般労働者派遣
一般派遣のうち労働期間が30日に満たない短期派遣を日雇い派遣という

/政府・財界による労働者の流動化政策
1985年に労働者派遣法が成立

/日雇い派遣でも有給休暇をもらえる
派遣社員は派遣先の福利厚生施設を利用できるのか否か
深夜食を食べようとしたら食堂を使わせてもらえず、外で食べろと追い出された。飲み物も自販機に格安の値段が設定されていたが、これは社員の為に会社が補助している者だから派遣は外のコンビニで買えと指示された

/人材派遣会社20代社員の異常な高収入
合理化を指南するコンサルタント
要するに企業に入り込んで組織改編と人減らしを促す事業

第2章 人材派遣が生んだ奴隷労働の職場
/未登録でも派遣する人材派遣会社がある
人材派遣の要でもあるマージン率の公開を義務付けた。かつては一部で50%にも達していたピンハネ率は30%程度に抑えられている
人材派遣会社にとってピンハネだけが問題だから、子供でも外国人でも誰でもいいのだろう

/就業規則で「おまえ、態度悪いからクビ」
派遣先で他の労働者と会話してはいけません
複数の人材派遣会社が一つの職場に労働者を派遣
派遣先との契約時期や派遣人数、ピンハネ率の違いなどで賃金に差
派遣先への移動に際しての交通費はお支払できません

/就業条件外の過酷負担
横浜市 問題の職権は市内を走る循環バスの乗客の誘導員
トリエンナーレ
/中高年は美術品が似合わない?
広域に広がったイベントであるにもかかわらず、該当に道案内のガイドが全く配置していなかった
頭を使うガイドとなると、自給は2000円に跳ね上がる

/二重帳簿ならぬ二重マニュアル
トリエンナーレのブラックバイトリポート

/ノロウイルス感染者に「食品工場に行け!」
大手製パン会社のクリスマスケーキ

/官公庁と自治体、外郭団体でも非正規労働が拡大
官庁のそれまでの随意契約方式による民間事業委託を否定し、競争入札制度を採用
図書館司書、役所の各窓口、公立学校の教職員、カウンセラー、消費生活相談員、博物館や大ホールの運営スタッフなどが続々と外部の民間業者に委託され、同時に人材派遣会社が低賃金労働者を送り込む仕組みができあがった
最低価格落札方式の場合、提案企業の業務の質、労働者の待遇など事業の中身が問われることは無い

/不正の温床になりかねない危うさ
人材派遣会社が提案する「コストダウン」
知恵が無い。単に派遣労働者の賃金と待遇を最低のレベルに設定するだけ

/恐怖をふりまく正規社員たち
正社員「感情を抑える」「相手の立場を思いやる」といった社会人として必要な節度が欠落している

第4章 悪質な人材派遣会社を一掃せよ
―「二度と仕事紹介してもらえないよ。かわいそう」
/拡大する一方の非正規労働者
雇用者数を押し上げたのは123万人増えた非正規雇用
アルバイト、パート、派遣社員などの日正規社員は2014年 2000万人を超えて2012万人
中高年は45-54歳 387万人
65歳以上141万人
/週5日終夜勤務/従順な派遣労働者
いったん正社員の座から落ちてしまったら、もう絶対に元には戻れないのが日本という国

/人材派遣を推進する識者たち
人材派遣を活用するのは、派遣スタッフの奴隷制、使い捨てに魅力があるから
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■目次
はじめに
―奴隷労働の現場

第1章 人材派遣という名の「人間キャッチボール」
―「いい年して、どうして人並みのことができないんだ!?」
/迷走する労働行政
/元祖はドヤ街の手配師
/政府・財界による労働者の流動化政策
/行政処分された第二世代人材派遣
/衰退と復活の第三世代
/労働内容の説明は虚偽
/派遣はエレベータ使用禁止
/監禁労働のタコ部屋
/悪意の果ての無駄
/人材派遣会社のシステム
/派遣労働者は保護されているか
/派遣元責任者と派遣先責任者
/日雇い派遣でも有給休暇をもらえる
/派遣労働者使い捨ての「待機」
/派遣先責任者によるひどい仕打ち
/一日中倉庫で重さ20キロのスーツケース運び
/人材派遣会社20代社員の異常な高収入
/求人サイトの矜持と責任
/ヤラセだった英会話通勤バス
/日雇い派遣の原則禁止問題
/近年稀に見る悪法
/中高年が職に就けない現実
/「年齢制限なし」の「裏メッセージ」
/「三種の辛技」
/いい加減な「人間キャッチボール」
/労働基準法に刃向う労働者派遣法

第2章 人材派遣が生んだ奴隷労働の職場
/極限まで単純化された派遣労働
/巨大ダンボール箱と格闘した中高年の「善意」
/人材派遣の定番「ピッキング」で実はトラブル続出
/派遣労働者に損害金を請求
/カゴテナーと接触して負傷
/出勤確認連絡
/マニュアルによる効率化は本当か
/予定調和のストーリー
/人材派遣会社が紀勢線を張ったワケ
/マニュアルは金科玉条
/未登録でも派遣する人材派遣会社がある
/就業規則で「おまえ、態度悪いからクビ」
/現代の派遣切り「お父さん、酒臭いよ」
/違法な人材派遣会社との二日間の攻防
/派遣労働者の差別待遇
/困難な業務でも派遣が担当
/就業条件外の過酷負担
/私たちは税金泥棒ではありません
/中高年は美術品が似合わない?
/二重帳簿ならぬ二重マニュアル
/テレビ局派遣で逆立ち強制
/ノロウイルス感染者に「食品工場に行け!」
/人材派遣会社の女性社員が必死なワケ
/東南被害も泣き寝入りの派遣労働者
/疑惑の「登録費」

第3章 人材派遣の危険な落とし穴
―「もう来るなよ。てめえみてえなじじい、いらねえから」
/人材派遣が急拡大した本当のワケ
/官公庁と自治体、外郭団体でも非正規労働が拡大
/時給2000円が900円に
/研修日当なし、交通費なし、最低賃金以下
/人材派遣会社の狡猾な手口
/人材派遣の安値受注が生んだトラブル
/人材を集められない人材派遣会社
/試験監督が逃亡しちゃった
/不正の温床になりかねない危うさ
/給与踏み倒し計画逃散?
/斜塔は元CAで名古屋財界のアイドル
/恐怖をふりまく正規社員たち
/事件の現場は巨大モール
/混乱する運営の尻拭い
/繰返される監視役の無意味な指導
/踏みにじられた買い物客の夢
/無知な派遣先責任者との攻防
/強要、脅迫、監禁
/労働者の救済要請を無視
/奴隷派遣は本当にお得なのか?
/熟練者と素人の差
/無責任体質
/人材派遣活用のリスク
/人材派遣会社に頼ったら事業が行き詰った
/カタカナ肩書き乱発のハレーション
/イベントでの日雇い派遣は業務上横領?
/除夜の鐘が鳴る頃、てんやわんやの大騒ぎ
/若者と中高年との格差
/意気消沈する派遣先責任者
/企業の稼ぐ力を削ぐ無責任人事

第4章 悪質な人材派遣会社を一掃せよ
―「二度と仕事紹介してもらえないよ。かわいそう」
/拡大する一方の非正規労働者
/週5日終夜勤務/従順な派遣労働者
/中高年を殺すな
/従順な派遣労働者
/権利意識に欠ける中高年労働者
/労働環境によるワナ
/現実を直視してほしい
/人材派遣を推進する識者たち
/重要な情報をネグレクト
/欠けている労働者保護の視点
/人材派遣と景気浮揚
/副社長が帰っちゃった!欧州の労働事情
/日本にスウェーデン流を持ち込んだ企業
/欧米先進国比較 ドイツ・米国・フランス

あとがき―すぐにできる改善策の提案
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中沢彰吾

「ジャージの二人」 中村義洋 2008 ★★

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スタッフ
監督 中村義洋
脚本 中村義洋
原作 長嶋有『ジャージの二人』
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キャスト
息子:堺雅人
父親:鮎川誠(シーナ&ザ・ロケッツ)
息子の妻:水野美紀
花ちゃん:田中あさみ
岡田:ダンカン
遠山さん:大楠道代
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夫婦の間で問題があり、会社も辞めたばかりの息子が、グラビアカメラマンの父に連れられて、避暑地の軽井沢にある古い山荘で数日過ごす夏休みの様子を描いた物語。どうやらこの山荘は、父親の実家であり、かつ子供が小さいときからこの山荘に夏休みの度に来ていたようで、周囲の住民とも顔なじみの様子である。

富士山も眺めることのでき、キャベツ畑の広がる広大な自然の中、なぜかダンボールの中から取り出されたのは、この地域の様々な小学校のジャージ。この山荘にいる間はジャージで過ごさなければいけない家族のルールがあるのか、二人は何の疑問も無く色鮮やかなジャージで毎日を過ごすことになる。

ロケは嬬恋など北軽井沢周辺で行われたというが、周囲はほとんど緑色という環境の中、二人のジャージの姿がとても印象的な画になっている。父と息子、夏休みでやってきた娘に息子の奥さん。そして近所のおばさんとおじさんと、主要登場人物は非常に少ないにも関わらず、閉塞感も無く、広大な風景そのもの、ゆったりとしたテンポで物語りは進んでいく。

テレビゲームに勤しむ父に、できるだけ映画を観ようとレンタルビデオ店に通う娘。そして小説を書こうとするがなかなか書き進めない息子など、それぞれが自分の時間をすごす対象を持っていながら、互いの距離感は離れすぎないと、なんとも仲の良い家族の関係を描き出す。

携帯の電波が届きにくい場所で、キャベツ畑の一箇所だけ電波が3本も入る穴場があり、そこに行っては手を掲げ、受信するメールの音が流れるというシーンは、ネットワークから外れることができない現代人と、ネットワークから外れることはすなわちドロップアウトすることだという脅迫概念に追われながら生きている我々にとって、なんとも象徴的なシーンである。

主演の一人である父親役の鮎川誠についてはまったく知らなかったが、息子たちと絶妙な距離感をとりながら、子供のようでありながら父親をこなしている役にぴったりなキャスティング。同時に、やはりこういうのほほんとした映画には堺雅人はよく合うなと納得してしまう一作である。








中村義洋

2016年3月4日金曜日

「隠された貧困 生活保護で救われる人たち」 大山典宏 2014 ★★

2008年に起きたリーマンショック。その影響によって顕在化してきた社会の中の格差。その結果年越し派遣村など様々な形で日常を過ごすことが困難な経済状況にいる人たちが世の中に認知されるようになると、大きな格差という括りの中で、「非正規労働者」、「子供の格差」、「女性の格差」、「漂流老人」などと毎年の様に新たなるカテゴリーが登場して世の不安を煽るかのようである。

その流れの中でこの数年特にスポットが当てられているのはシングルマザーなどの女性の貧困と、高齢者の貧困。結局それらは現在の日本が構造的に抱える問題が断片的に光を当てられ、世間に分かりやすいように、「決して人事ではなくあなたもそうなる可能性のある、すぐ横にある問題ですよ」と報じられているだけに過ぎず、それでも決して報道で取り上げられることのない貧困の在り方は別にある。

そんな普段の生活からは見えにくい貧困の在り方に真摯に向き合い光を当てようとするこの一冊。児童養護施設出身者、高齢犯罪者、薬物依存者、外国人貧困者、ホームレス・高齢孤立者、生活保護受給者と、様々な場所で槍玉に挙げられがちな人々をその背景から現状まで詳しく描き、その根本にある原因を描き出そうとする。

まるで受けやすいネーミングをつけて「○○格差」や「○○の貧困」と世間の注目を浴びてそれにより何かを得ようとするある一定の報道のされ方よりは、よっぽど好感の持てる内容だし、問題の在り処もよく分かる内容である。全体的に客観的に物事を伝えようとするために、インタビューを大量に使用しているのが読み物としてやや気になるが、それは真摯な著者の態度の現れであるのだと思われる。

以下本文より。

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メディアで伝えるのは、多くの人が共感する、わかりやすい生活保護者です。

第一章 児童養護施設出身者 
/児童養護施設の現状
約4万7千人

/自立援助ホームとは
義務教育を終えた15歳から20歳までの子供たちが働きながら自立に向けて生活をする場所
基本的には生活のすべてを自分の手で賄わなければなりません

第二章 高齢犯罪者 
/高齢犯罪者大国・日本
諸外国が3%前後 日本だけが10%を超えている

/孤立と貧困が犯罪を生む
犯罪を繰返すことで、家族や仕事、住いを失い、孤立していく高齢者の姿

第三章 薬物依存者
/「ダメ、ゼッタイ。」では防げない
自傷経験のない9割の生徒の多くは、薬物乱用防止講演など聴かなくとも、そもそも薬物には縁のない生活を送り続けるのではないか。そして1割のハイリスク群の生徒は、その様な公園を聴いても結局薬物に手を出す時には手を出すのではないか。

/居場所がない寂しさ
「ヒマだったから」
「淋しさ」や「誰からも必要とされていない感覚」

第四章 外国人貧困者 
約203万人
/同胞のきずな
多くは日本人の男性と結婚をした女性とその子供
母親は「日本人の子の母」として在留資格を取得し、生活保護を利用している

/何が問題なのか
日本人男性と結婚したフィリピンの女性が離婚して生活保護を利用する例が、近年の外国人の生活保護では最も大きな問題


第五章 ホームレス・孤立高齢者
漂流高齢者
/ホームレス地域生活以降事業
緊急一次保護センターと自立支援センター
ホームレスが付き三千円の家賃で入居しながら自立に向けて職を探す

/アウトリーチとハウジング・ファースト
アウトリーチ 職員が困っている人のところに足を運び、サービスを提案するところからかかわりが始まる

第六章 生活保護から見えるもの
/激増する生活保護
2008年 起きたリーマンショック
日比谷公園 年越し派遣村

/求められる自立支援
若い利用者の急増
就職活動に疲れて自宅に引きこもる若者、精神疾患の増加とそれに伴う自殺、崎の見えない中高年男性の再就職活動、アルコールやギャンブルへの依存・・・。中卒、高校中退などの低学歴者 四角や経験もなく、身体のあちこちに不調を抱え、コミュニケーション能力 
生活全体を立て直すところから始めないといけない

三つの対策
生活保護に至る前のセーフティネットを手厚くする
早期に脱却できる体制を整える
貧困の再生産を防ぐための手立てをする

/モノ扱いされる人たち
人をモノとして扱う
冷凍食品に農薬のマラチオンが混入

/承認を巡る闘争
承認という概念「愛・法・連帯」の三つの次元
人から愛されること
認められる経験
役割を与えられる
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■目次  
はじめに

第一章 児童養護施設出身者 「私のことを必要としてくれた」
/ドキュメント=隠された貧困① 児童養護施設出身者
>私のことを必要としてくれた
/家族に黙って家を出る
/乳児院、児童養護施設、そして里親へ
/親権の壁
/自立援助ホームへ
/生活保護は受けたくない
/私のことを必要としてくれた
/実家との和解
/繰返される虐待死
/厳罰化で歯止めを
/児童養護施設の現状
/不十分なケア体制
/施設出身者の厳しい状況
/施設出身者の追跡調査
/自立援助ホームとは
/重なり合う不利
/自立援助ホームと生活保護
/大人のことは信用しないぞ
/共依存の女の子
/死ななきゃいい

第二章 高齢犯罪者 「息子たちに手紙を書いています」
ドキュメント=隠された貧困②  高齢犯罪者
>息子たちに手紙を書いています
/元気をもらいたくて
/病気は大丈夫?
/入院患者に四人の刑務官
/夫と二人で工場を切り盛り
/なぜ刑務所に
/今は天国のようです
/高齢犯罪者大国・日本
/高齢者のモラルが低下した?
/無銭飲食や放置自転車を盗んで刑務所に
/孤立と貧困が犯罪を生む
/困ったら刑務所へ
/累犯障害者
/地域生活定着支援センター
/昔からやっていた
/他に行け
/男物の使用済みトレーニングウェアを盗む男性
/実刑はやむを得ないと考えていた

第三章 薬物依存者 「認めてもらえる場所がある」
ドキュメント=隠された貧困③ 薬物依存者
>認めてもらえる場所がある
/シンナーがあんパンと呼ばれていた時代
/たいしたことじゃない
/逃げ癖がつく
/逮捕されてもやめられない
/あなたが決めなさい
/「分かるよ」と笑われた
/三度目の再使用
/またカネか!
/八王子にもダルクを
/「ダメ、ゼッタイ。」では防げない
/居場所がない寂しさ
/厳罰化で覚せい剤を止められるか
/薬物依存の治療
/ダルク設立のきっかけ
/たった一つのルール
/ダルクの現状
/八王子ダルク
/窓口には自分の足で
/ダルクのこれから
/日本にもドラッグ・コートを

第四章 外国人貧困者 「なぜ、外国人なのに保護が受けられるんですか」
ドキュメント=隠された貧困④ 外国人貧困者
>なぜ、外国人なのに保護が受けられるんですか
/外国人が生活保護をもらえるのはおかしい
/外国人の誰もが受けられる訳じゃない
/同胞のきずな
/ヘルパー資格を取る
/夢は子供のこと
/あなた生活保護でしょ
/日本に根を張る外国人労働者
/リーマンショック後の就労・生活相談の増加
/外国人と生活保護
/何が問題なのか
/ふじみの国際交流センターの活躍
/多岐に渡る生活支援
/二人三脚の相談体制
/変わる外国人支援
/働かせるために呼び寄せる
/ようやく手に入れた普通の生活

第五章 ホームレス・孤立高齢者 「続かないんだよね」
ドキュメント=隠された貧困⑤ ホームレス・孤立高齢者
>元ホームレス
/三千円アパート
/ホームレス地域生活以降事業
/アウトリーチとハウジング・ファースト
/10万円で売れたロレックス
/保護申請はスムーズだった
/落ち着かなくてね
/人間関係はどこにでもある
/静養ホームたまゆらの悲劇
/構造的に生み出される漂流高齢者
/福祉施設からも締め出される
/施設増設は解決の切り札になるのか
/今ある住いを「支援付き」に
/ホームレス支援から始まった
/ケア付き就労とコミュニティビジネス

第六章 生活保護から見えるもの
/忘れ去られた生活保護
/激増する生活保護
/求められる自立支援
/制度の設計では解決できない者
/見えない人間
/モノ扱いされる人たち
/承認を巡る闘争
/インタビューを振り返る
/誰でも生きやすい社会に
/最後のセーフティネットの価値

あとがき
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2016年3月1日火曜日

「檸檬のころ」 岩田ユキ 2007 ★★★


岩田ユキ
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スタッフ
監督 岩田ユキ
脚本 岩田ユキ
原作 豊島ミホ
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キャスト
秋元加代子:榮倉奈々
白田恵:谷村美月
佐々木富蔵:柄本佑
辻本一也:林直次郎(平川地一丁目)
西巧:石田法嗣
金子晋平:石井正則(アリtoキリギリス)
金子商店主人:織本順吉
白田の父:大地康雄(特別出演)
大住志摩(白田恵のいとこ):田島ゆみか
吉井薫(サイドギター担当):波瑠
林尚弘(ドラム担当):島田悟志
藤山剛史(ギター担当):島崎徹
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のどかな風景に囲まれる地方の高校を舞台にした青春映画。好きな女の子と交わす一言でその日のすべてが決まってしまう、そんな淡い高校時代がありありと脳裏に思い返される一作である。

学校で学ぶのは授業だけではなく、人はこうして友人や異性との接し方や距離の取りかたを徐々に経験と時間を積み重ねることによって学んでいくのだと改めて思わされる。自分の思うようにいかないトライ・アンド・エラーの中で、心を引き裂かれるような思いをしながら、少しずつ周囲の人との関係性を築けるようになっていく。

そしてそれは年齢に関係なく、かならず通ってこなければいけない社会との折衝であり、傷つくのを恐れたり、守られすぎたりとして通らずに過ごしてしまえば、その分大人になってツケを払う必要に迫られるということか。

受験と大学のある場所によってその後の人生が大きく変わってしまう高校三年生。毎日一緒だった時間から、いきなり別の日常を過ごすようになる大きな断絶を受け入れることを強いられる。

楽器がうまかったり、明るかったり、かっこよかったりと、非常にシンプルな方法で恋に発展し、その関係の中から、その後より複雑に絡み合う恋愛というものに足を踏み入れていく。

主演の榮倉奈々を筆頭に、なんとも見事なキャスティング。明るく、クラスでも人気者を演じる榮倉奈々は、学校のマドンナという役割ながら、決して見た目が抜きん出てカッコいいとは言えない野球部のエースに恋をするという設定が、やたらとリアリティを増してくれる。

自分の目線からからしか見えてなかった学校という舞台には、それぞれの場所でそれぞれの人が、様々な想いを持ちながら毎日を過ごして、成長していたのだと改めて高校時代の貴重さを思わされるのと同時に、これくらいの地方都市の進学校が一番良いのではと思わずにいられない一作である。